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東京地方裁判所 昭和46年(特わ)8号 判決 1971年10月05日

被告人

本籍ならびに住居

東京都豊島区千川町二丁目二八番地

貸金業

苅込吉介

昭和三年五月一八日生

被告事件

所得税法違反

出席検察官

佐藤道夫

主文

1  被告人を懲役八月および罰金七〇〇万円に処する。

2  右罰金を完納することができないときは二万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

3  この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都豊島区千川町二丁目二八番地において貸金業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、ことさら帳簿の記帳および領収書の発行をなさず、貸付金の元本および利息を架空名義の普通預金口座を使用して取立てる等の不正な方法により所得を秘匿したうえ

第一、昭和四二年分の実際課税所得金額が一七、六七二、〇〇〇円あつたのにかかわらず、右所得税の申告期限である昭和四三年三月一五日までに、東京都豊島区西池袋三丁目二七番九号所在所轄豊島税務署長に対し、法定の確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もつて同年分の正規の所得税額八、一九三、五〇〇円を免れ

第二、昭和四三年分の実際課税所得金額が四一、一八九、〇〇〇円あつたにもかかわらず、昭和四四年三月一三日前記所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、課税所得金額が一九二、〇〇〇円でこれに対する所得税額が一八、四〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて同年分の正規の所得税額二二、七一二、七〇〇円と右申告税額との差額二二、六九四、三〇〇円を免れ

たものである。(なお、右各所得の内容は別紙一、二の各修正損益計算書のとおりであり、税額の計算は別紙三の税額計算書のとおりである。)

(証拠の標目)

(かつこ内は立証事項であり、数字は別紙一、二の各修正損益計算書の勘定科目の番号を示す。)

一、大蔵事務官作成の次の書面

1  貸付金・収入利子等調査書(一の1、二の1)

2  前受利子・未収利子調査書(一の1、二の1)

3  あん分計算による経費調査書(一の489、二の3789)

4  支払手数料調査書(一の3、二の2)

5  電話料金(通信費)調査書(一の6、二の5)

6  銀行調査書(全般)

7  科目別調査書(一の25710111214、二の4610111214)

8  未払利子・前受利子調査書(一の12、二の12)

9  前払利子調査書(一の12)

10  減価償却費調査書(一の13、二の13)

11  株式配当金等調査書(一の16、二の16)

一、静岡県修善寺長浅羽靖作成の固定資産税収納状況の照会に対する回答書(一の4、二の3)

一、押収してある所得税確定申告書一通(昭和四六年押八三一号の46)(二の18)

一、被告人に対する大蔵事務官の各質問てん末書(ただし、検察官請求証拠目録乙19ないし21を除く。)(全般)

一、被告人の検察官に対する昭和四五年一二月二二日付、同月二六日付各供述調書(全般)

(弁譲人の主張に対する判断)

弁譲人は、被告人は昭和三八年一二月末日現在国鉄興業株式会社に対し約九、六〇〇万円の貸金債権を有していたが、右債権は右会社の倒産(昭和三九年二月一三日)および消滅時効の完成(昭和四三年中)によつて昭和四三年中に事実上も法律上も回収不能になつたから右同額を貸倒損失として昭和四三年分の所得から控除すべきであると主張するので、この点について検討する。

証人笠井麗資の当公判における供述、被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書三通(ただし、検察官請求証拠目録乙19ないし21のもの。)および被告人の検察官に対する昭和四五年一二月二五日付、同四六年一月九日付各供述調書によると、国鉄興業株式会社は昭和三九年二月一三日、被告人に対する約一億円の借入金債務のほか、他にも数億円にのぼる負債を残したままいわゆる不渡手形を出して倒産したこと、右倒産はもちろん什器備品にいたるまですべて債権者等の手に渡り、遅くとも昭和四〇年ころには無資産となつて事業の遂行はもとより被告人に対する債務の返済も事実上不可能な状態となつたことが認められる。

右認定の国鉄興業株式会社の資産状況、支払能力等からみると、被告人の右会社に対する前記貸金は遅くとも昭和四〇年中に貸倒れになつたものと認めるのが相当である。(貸金等の債権は、それが法律上消滅した場合でなくても債務者の資産状況、支払能力等からみて事実上回収不能となつた場合には、その時点において貸倒れになるものと解すべきである。)

なお、前記各証拠によると、国鉄興業株式会社の代表取締役であつた笠井麗資は、被告人に対し、昭和四〇年中に合計一〇〇万円位、同四一年中に二〇万円位をそれぞれ支払つていることが認められるけれども、右金銭の支払は右会社からの債務の弁済ではなく代表者であつた右笠井の道義的責任に基く個人的な支払いであつたものと認められるので、右支払の事実によつても前記貸倒れの時期の認定を左右するに足りない。

そして、青色申告者でない被告人については損失の繰越控除は認められないから、結局右貸倒れを昭和四三年分の所得から控除すべきであるとする弁譲人の主張は採用できない。

(法令の適用)

各所得税法二三八条(いずれも懲役刑および罰金刑を併科)。刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(第二の罪の刑に加重)、四八条二項。同法一八条(主文2)。同法二五条一項(主文3)。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 松本昭徳)

別紙一 修正損益計算書

苅込吉介

自 昭和42年1月1日

至 昭和42年12月31日

No.

<省略>

別紙二 修正損益計算書

苅込吉介

自 昭和43年1月1日

至 昭和43年12月31日

No.

<省略>

別紙三 税額計算書

苅込吉介

<省略>

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